歯根の黒ずみと歯茎の下がりが気になる歯をセラミックで審美回復した症例
歯根の黒ずみと歯茎の下がりが気になる歯をセラミックで審美回復した症例
鏡を見るたびに気になって、いつしか人前で大きく口を開けて笑えなくなる。
今回ご紹介する患者さんは、まさにそんなお悩みを抱えていらっしゃいました。
歯科医院に対する苦手意識もあり、長い間受診をためらわれていた男性の患者さまです。それでも勇気を出して当院へお越しくださいました。
その一歩に、私たちは全力で応えたいと考えました。これは、ただの「治療の記録」ではありません。一人の患者さんが、もう一度自信を持って笑えるようになるまでの物語です。
前歯には保険の金属の被せ物(メタルの全層冠)が入っていて、その金属によって歯そのものが黒っぽく変色して見えていました。
さらに前歯全体の歯茎が大きく下がってしまっている状態でした。
前歯を拡大した写真です。金属の影響で歯の根元が黒ずみ、下がった歯茎との境目がはっきりと目立ってしまっています。
歯茎がどの程度下がっているか、退縮量を確認・記録しました。前歯だけでなく、両隣の歯にも歯茎の退縮がみられ、歯根部分の黒ずみが目立つ状態でした。
単に黒ずみを隠すだけでは、自然で美しい仕上がりにはなりません。歯茎の位置や形態まで整えることで、口元全体の審美性を回復することが大切です。
古い被せ物の除去
古い金属の被せ物を慎重に取り外しました。ここからが本当の治療のスタートです。土台となる歯の状態を、一つひとつ丁寧に確認していきます。
被せ物の下にあった土台(コア)も外し、歯の根の状態を確認します。
根管治療・土台(コア)の形成
根の中をしっかり治療(根管治療)したうえで、新しい土台(コア)を立て直した写真です。
仮歯の装着
新しい土台(コア)を立て直した後、まず仮の歯を装着します。
根面被覆治療の実施
前歯の黒ずみが歯茎から透けて見えるのを防ぐため、ご自身の組織(結合組織) を移植して歯茎を分厚くしました。
これにより、黒い歯の透け感を抑えると同時に、両隣の下がってしまった歯茎も回復させる「根面被覆」を行いました。
移植した歯茎が治癒し、しっかりと定着しました。
支台歯
マイクロスコープ下で、ジンジバルリトラクターという歯茎を保護する器具を使用し、歯茎を傷つけないよう配慮しながら、土台の形を丁寧に整えていきます。
歯肉縁下マージンの設定(Subgingival margin placement)
整えた歯茎に合わせて仮歯を調整し、S-shapeプロファイルという形態を与えていきます。
S-shapeプロファイルについて
Sシェイププロファイルとは、歯が歯茎から立ち上がる部分を、ゆるやかなS字カーブに整える技術です。このカーブを付与することで、歯と歯茎の境目が自然になじみ、まるで「もともとそこから生えていた」かのような美しいラインが生まれます。
自然で美しい歯は、歯そのものだけでなく、歯茎との"立ち上がり"の形で決まります。
二重圧排
いよいよ、最終的なセラミックの歯を製作するための精密な型取りを行います。
今回は、二重圧排という方法を用いました。二重圧排とは、歯と歯茎の境目を正確に記録するために、歯茎を一時的にやさしく広げて型取りを行う方法です。歯茎の下に設定したセラミックのラインまでシリコン印象材がきれいに行き渡るようにすることで、通常は見えにくい部分まで正確に再現することができます。
歯茎の中の見えない部分まで正確に。この精度が、ぴったり合う美しい歯につながります。
シリコン印象剤で型取り
シリコン印象剤で型取りを行いました。歯茎の下のラインまで正確に型取りできています。
Digital Shade Matching by eLAB System
歯の色を最先端のデジタルシェード機器「eLAB System」を使って数値で正確に分析・記録します。
Biomic Color Opaque Liquid System(Aidite)
今回は土台が真っ黒だったため、セラミック(ジルコニア)の内側に黒さを遮断するためのマスキング用リキッドを塗りました。
焼結後のジルコニアです。
模型による最終チェック
黒く変色した土台を完全に再現した模型を作り、その上で「本当に黒さをマスキングできるか」を事前に検証しました。患者さんのお口に入れる前に、模型で完璧に確認する。妥協のない確実さを大切にしています。
最終的な被せ物の完成
完成した最終的な被せ物です。歯茎に接する部分は、あえて色付けやステインをせず、完全に磨き上げたハイポリッシュなジルコニアにしています。これは、磨き上げられたジルコニアが歯茎にとって最も優しく、健康を保ちやすいとされているためです。
見える美しさだけでなく、歯茎の健康まで考えた素材選び。長く美しさを保つための設計です。
最終的な被せ物の装着
セット時には、黒く変色した土台をできる限り隠すため、接着剤にも遮色効果のある「パナビア V5 のブリーチ」を使用しました。
最後の接着剤の一滴まで、黒さを抑えるための配慮を。細部の積み重ねが、最終的な仕上がりを左右します。
黒ずんでいた前歯も、下がっていた歯ぐきも改善し、お口全体が見違えるような印象へと生まれ変わりました。
治療前後の比較
治療前・治療後の比較です。前歯はもちろん、全体的に入っていた銀歯や奥歯のインプラントも施術させていただきました。
こちらのお患者さんは、もともと歯科治療があまり得意ではなく、長く通院から遠ざかっていた男性の方でした。それが治療を終えた今、「すっかり歯医者が好きになりました」とおっしゃってくださいました。そして、見違えるほど綺麗になったご自身の歯を見て、最後には涙を流してくださる場面もありました。
正直に申し上げると、真っ黒に変色した前歯をここまで回復させ、さらに下がった歯茎まで移植して審美的に立て直すことは、決して簡単なことではありません。けれど、腕の確かな技工士と手を組み、一つひとつの工程を繊細に、丁寧に積み重ねていくことで、ここまでの結果を出すことができます。
患者さんがこんなにも喜んでくださったこと——それは私にとって、この仕事の本当の意味を改めて教えてくれる出来事でした。人に喜んでもらうために、私たちはこの仕事をしている。これからも一人でも多くの患者さんに心から満足していただけるよう、プロとして全力を尽くしてまいります。
「もう人前で笑えない」とあきらめてしまう前に、ぜひ一度ご相談ください。あなたの笑顔を取り戻すお手伝いを、全力でさせていただきます。
| 年齢・性別 | 50代 男性 |
|---|---|
| 治療期間 | 5ヵ月 |
| 治療回数 | 12回(前歯セラミック、歯肉退縮部の根面被覆) |
| 治療費 | 前歯セラミック1歯 / 175,000円(税込) 根面被覆 220,000円(税込) |
| リスク・注意点 | セラミック治療は審美性・耐久性に優れた治療ですが、以下のような点についてご理解をお願いいたします。 ・歯茎の移植を伴う処置の後には、内出血や腫れが生じることがあります。また、まれに治療部位に軽いしびれや違和感が出ることがありますが、多くの場合は時間とともに回復します。 ・処方されたお薬によって、まれに吐き気やめまいなどの一時的な副作用を感じることがあります。体調に変化があれば、すぐにご相談ください。 ・被せ物に強い力が加わると、破損や脱離が生じる場合があります。 |






































