ただ撮るだけでは意味がない?歯科における「規格撮影」とは
投稿日:2026年2月16日
カテゴリ:歯列矯正
執筆担当:マウスピース矯正認定医 元大手法人矯正部門統括ドクター 生野智也

矯正治療を検討されている方、あるいは現在通院中の方の中に、こんな経験をされたことはありませんか?
「初診の時、口の中に大きな鏡や器具を入れられて、何枚も写真を撮られた」 「毎回の調整のたびに写真を撮られるけれど、あれは本当に必要なの?」 「口を引っ張られて正直苦しいし、恥ずかしい…」
そのお気持ち、歯科医師として痛いほどよく分かります。口角を器具(口角鉤)で引っ張られ、大きな鏡を口の中に入れられるのは、決して快適な体験ではないはずです。
しかし、あえて断言させてください。あの「一見地味で面倒な写真撮影(規格撮影)」こそが、矯正治療の成功と失敗を分ける、最も重要なプロセスの一つなのです。
単に記録として撮っているわけではありません。あれは、皆様の歯並びや噛み合わせを「0.1ミリ単位」で分析し、間違いのないゴールへ導くための「地図」を作っている作業と言えます。逆に言えば、写真撮影がおろそかな医院で、精密な矯正治療を行うことは不可能と言っても過言ではありません。
なぜ、私たち西宮北口歯医者スター歯科(スター歯科クリニック)は、これほどまでに写真のクオリティにこだわるのか。 今回は、歯科医療の裏側にある「規格撮影(5枚法)」の秘密と、それが皆様の治療結果にどう直結するのかを、包み隠さずお話しします。
1. ただ撮るだけでは意味がない?歯科における「規格撮影」とは
歯科医院で撮影する口の中の写真には、大きく分けて2種類あります。一つは、気になった部分をパッと撮る「スナップ写真」。そしてもう一つが、私たちが徹底している「規格写真(きかくしゃしん)」です。

「規格写真」と「スナップ写真」の決定的な違い
私たちがスマホで料理や風景を撮る時、その場の雰囲気で角度や距離を変えますよね。これがスナップ写真です。しかし、医療におけるデータ記録でそれをやってしまうと、診断の価値がなくなってしまいます。
「規格写真」とは、撮影する倍率、角度、照明、構図、患者様の顔の向きなどが厳密に定義された写真のことを指します。
例えば、
「正面観」は、上下の真ん中(正中線)が写真の中心に来ているか。
「咬合面(噛み合わせの面)」は、鏡を使って真上・真下から垂直に捉えられているか。
撮影倍率は常に「1/1.2倍」あるいは「1/2倍」で固定されているか。
これらが統一されて初めて、「半年前の状態」と「今の状態」を重ね合わせて比較することができます。もし、前回と今回でカメラの距離が少しでも違っていたら、歯が動いたのか、単にカメラが近づいただけなのか、判断がつかなくなってしまうのです。
高度なスキルが必要な「職人技」の世界
「ただシャッターを押すだけでしょ?」と思われるかもしれませんが、実は規格撮影は非常に難しい技術です。
口の中は暗く、狭く、唾液もあり、舌も動きます。その中で、専用の「口角鉤(こうかくこう)」という器具で唇を優しく、かつしっかりと排除し、専用のミラー(鏡)を適切な角度で挿入し、曇らないようにエアーをかけながら、ピントを合わせてシャッターを切る。これを患者様が苦しくないよう、数秒以内に行わなければなりません。
当院のスタッフやドクターが、時折「もう少しお顔を右に向けてください」「顎を引いてください」と細かくお願いするのは、後で診断する際に絶対に狂いが生じない、完璧な資料を残したいという執念があるからなのです。
基本となる「5枚法」のアングルとその意味
歯科矯正における世界的なスタンダードは「5枚法」と呼ばれるセットです。当院でもこれを基本とし、必要に応じて枚数を増やしています。
・正面観(しょうめんかん):前歯の噛み合わせ、上下の正中線のズレ、歯茎の状態を見ます。
・右側方面観(うそくほうめんかん):右側の奥歯の噛み合わせ(1級・2級・3級という分類)を確認します。
・左側方面観(さそくほうめんかん):左側の奥歯の噛み合わせを確認します。
・上顎咬合面観(じょうがくこうごうめんかん):上の歯並びのアーチの形、ねじれ、虫歯の有無を真下から見ます。
・下顎咬合面観(かがくこうごうめんかん):下の歯並びのアーチの形、舌のスペースなどを真上から見ます。
これら5枚が揃って初めて、口の中全体を立体的に把握(再構築)することが可能になります。
2. 矯正治療において「口腔内写真」が不可欠な3つの理由
レントゲン(CT)があれば、写真は要らないのでは?」という疑問を持たれる方もいらっしゃいます。確かに骨の状態を見るにはCTが不可欠ですが、歯の表面の色、歯茎の腫れ、汚れの付着具合、そして微妙な角度の変化は、カラー写真でしか分かりません。
なぜ矯正治療では、虫歯治療以上に頻繁に撮影を行うのか。その理由は大きく3つあります。
1. 自分では見えない「お口の現状」を客観視するため
皆様は、ご自分の口の中をじっくり見たことはありますか? 洗面所の鏡で見えるのは、せいぜい前歯の表側くらいではないでしょうか。奥歯の噛み合わせや、上の歯の裏側、下の歯の裏側などは、自分では絶対に見ることができません。
私たちは撮影した高画質な規格写真を、診療台のモニターに大きく映し出します。すると、多くの患者様が驚かれます。 「奥歯にこんなに歯石がついていたなんて…」 「私の歯並び、上から見るとこんなにガタガタだったんですね」
「見えないものは、治そうと思えない」のが人間の心理です。まずはご自身の現状を客観的な「事実」として直視していただくこと。これが矯正治療のモチベーションの第一歩になります。
2. 治療計画(診断)の精度を極限まで高めるため
ここが最も重要なポイントです。 皆様が診療チェアに座っている時間は、長くても30分〜1時間程度でしょう。しかし、私たち歯科医師の仕事は、皆様がお帰りになった後にも続きます。
診療後に、撮影した写真をモニターに並べ、 「右側の噛み合わせがまだ少し浅いな」 「この歯をあと1ミリ回転させるスペースを作るにはどうすればいいか」 「以前の写真と比べて、歯茎が下がってきていないか」 といった分析を、時間をかけて行います。
この時、もし写真がピンボケだったり、角度がズレていたりしたらどうなるでしょうか? 誤った情報をもとに治療計画を立てることになり、最悪の場合、治療期間が延びたり、仕上がりに不満が残る結果になりかねません。精度の高い写真は、精度の高い診断の「命綱」なのです。
3. 治療の進捗と「ゴール」を共有するため
矯正治療は、数ヶ月から数年かかる長い旅です。 毎日鏡を見ていると、目が慣れてしまい、歯が動いているのかどうかが分からなくなってきます。 「本当に良くなっているのかな…」と不安になる時期が必ず来ます。
そんな時、治療開始前の「初診時の写真」と「現在の写真」を並べて比較します。 「見てください、半年前はここにあった八重歯が、今は完全に列に入っていますよ」 そうお見せすると、皆様の表情がパッと明るくなります。
変化を可視化することで、「頑張ってよかった」「あと少しだ」という前向きな気持ちを持っていただく。これも、私たちが写真を撮り続ける大きな理由の一つです。
3. 当院が「規格撮影」を徹底する理由【当院のこだわり】

一般的な歯科医院でも写真は撮りますが、当院(西宮北口スター歯科)のこだわりは少し特殊かもしれません。「そこまでやるの?」と言われることもありますが、それには明確な理由があります。
【学会実績】正確な写真は「質の高い技術」の証明
実は、「写真が上手いドクターは、治療も上手い」という業界の定説があります。 なぜなら、学会発表や認定医の審査において、最も厳しくチェックされるのが「提出された規格写真の精度」だからです。どんなに素晴らしい治療結果でも、写真が規格通りでなければ、審査の土俵にすら上がれません。
当院には、若手歯科医師の登竜門とされる「i6インプラントコース若手症例発表大会」で総合優勝(2025年)、準優勝(2023年)の実績を持つ歯科医師(岡田・生野)が在籍しています。また、私はISOI(国際口腔インプラント学会)認定医やインビザライン認定医の資格を有しています。
これらの実績は、日頃から「学会レベルの厳密な規格写真」を撮影し、客観的に評価される診断を行っていることの証明でもあります。 「賞を取っているからすごい」と言いたいのではありません。第三者の厳しい目にさらされても恥ずかしくないレベルの記録管理を、日常の臨床(皆様の治療)でも当たり前に行っているという安心感をお伝えしたいのです。
【対話重視】モニターを見ながらの丁寧なカウンセリング
「写真を撮られたけど、見せてもらえなかった」 これでは意味がありません。
当院には、専用のカウンセリングルームがあり、トリートメントコーディネーター(TC)という専門スタッフが在籍しています。 撮影した写真はすぐにサーバーに転送され、カウンセリングルームの大型モニターで皆様と一緒に確認します。
「ここがこうなっているから、この治療が必要です」 「ここを治すと、横顔のバランスがこう良くなります」
難しい専門用語ではなく、「視覚的な情報」として共有することで、皆様に心から納得して治療を選んでいただきたい。それが、私たちが対話を重視する理由です。
【理念】「人生のパートナー」として変化を記録し続ける
当院は「人生のパートナー」としての歯科医院を目指しており、インプラントの「一生涯保証」などを掲げています。 矯正治療が終わった後も、5年後、10年後、20年後と皆様の健康を見守っていきたいと考えています。
その時、「10年前の治療終了時の写真」があれば、 「最近少し前歯が動いてきましたが、10年前と比べるとここが原因ですね」 といった、精度の高い比較診断が可能になります。
過去の正確なデータは、将来の皆様の健康を守るための「財産」になります。 だからこそ、私たちは一枚一枚の写真に全力を注ぎ、大切に保管し続けているのです。
4. 矯正治療の流れと写真撮影のタイミング

具体的に、どのようなタイミングで撮影を行うのかをご説明します。「毎回撮られる意味」を知っていただければ、撮影時のストレスも少し軽減されるかもしれません。
初診・精密検査時(現状の完全な記録)
最も重要な撮影です。 ここでのデータが、すべての治療計画の「基準点(ベースライン)」になります。
- 口腔内写真(5枚法以上)
- 顔貌写真(がんぼうしゃしん):正面(真顔・スマイル)、横顔(Eラインの確認)、斜め45度など。顔全体のバランスと歯並びの関係を見ます。
- レントゲン・CT撮影:骨の中の状態を確認します。
治療中の経過観察(モニタリング)
ワイヤー矯正なら毎月の調整時、マウスピース矯正なら数ヶ月ごとのチェック時に撮影します。
- 計画通りに歯が動いているか?
- 噛み合わせにズレが生じていないか?
- 歯磨きができておらず、虫歯のリスクが高まっていないか?
これらをドクターがチェックするために必須です。
インビザライン治療における写真の役割
特に私が専門とするマウスピース矯正(インビザライン)では、写真はさらに重要です。 マウスピースが歯にしっかりフィットしているか(浮きがないか)、アタッチメント(歯につける突起)が取れていないかを拡大写真で確認します。 この微細なチェックを怠ると、マウスピースを作り直すことになり、治療期間が延びてしまう原因になります。
治療完了・保定期間(ビフォーアフターと維持)
矯正装置が外れた日、つまり「ゴール」の日に撮影します。 初診時の写真と並べて見た時の、患者様の「わぁっ!」という歓声と笑顔。私たち歯科医師にとって、最高の瞬間です。
その後は「保定期間(リテーナー期間)」に入りますが、半年に一度などの定期検診でも写真を撮ります。「後戻り」の兆候がないかを早期に発見し、きれいな歯並びを一生維持するためです。
5. まとめ:矯正治療の質は「写真」で決まる

最後までお読みいただき、ありがとうございます。 「たかが写真」と思われがちな規格撮影ですが、その一枚一枚には、「誤診を防ぎたい」「最短で最高の結果を出したい」「皆様の将来まで責任を持ちたい」という、私たち歯科医療チームの情熱と哲学が詰まっています。
もし、皆様が矯正治療の医院選びで迷われているなら、ぜひ「しっかりとした検査・写真撮影を行っているか」「その写真をモニターで見せて説明してくれるか」という視点を持ってみてください。 それは、その医院がごまかしのない、誠実な医療を行っているかどうかの重要なバロメーターになるはずです。
西宮北口スター歯科では、学会受賞歴のあるドクターと、トレーニングを積んだスタッフが連携し、大学病院レベルの精密なデータ管理を行っています。 「自分の歯の状態を正しく知りたい」「納得できる説明を聞いてから治療を始めたい」という方は、ぜひ一度当院のカウンセリングにお越しください。
撮らせていただいた写真を一緒に見ながら、皆様の「未来の笑顔」について、じっくりお話ししましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 口を引っ張られる器具が痛いのですが、我慢するしかありませんか?
- いえ、無理に我慢する必要はありません。すぐに教えてください! あの器具(口角鉤)は確かに違和感がありますよね。ただ、痛みが出るのは「サイズが合っていない」か「入れる角度が悪い」ことがほとんどです。当院では子供用から大人用まで様々なサイズの器具を用意していますし、痛みが出にくい入れ方をスタッフ全員が練習しています。「痛い」と合図をいただければ、すぐにサイズを変えたり、ワセリンを塗って滑りを良くしたりして対応しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
Q2. 毎回写真を撮られますが、被曝(ひばく)などの心配はないですか?
- カメラによる写真撮影ですので、被曝の心配は一切ありません。 レントゲン撮影(X線)とは異なり、皆様が普段スマホで写真を撮るのと同じ「可視光線」を使ったデジタルカメラでの撮影です。ですので、妊娠中の方や小さなお子様でも、毎回来院ごとに撮影してもお体に害は全くありません。安心して記録を残させていただければと思います。
Q3. 自分の口の中の写真をもらうことはできますか?
- もちろん可能です。ぜひお渡ししたいです! 当院では「写真は患者様の財産」だと考えています。ご自身のスマホでモニター画面を撮って帰られる方も多いですし、データとしてお渡しすることも可能です(データの受け渡し方法はご相談ください)。ご自宅でじっくり見ていただいたり、ご家族に説明したりするのに役立ててください。
Q4. 他院で矯正中ですが、説明が少なくて不安です。セカンドオピニオンで写真を撮ってもらえますか?
- はい、大歓迎です。客観的な診断をさせていただきます。 「今の治療が順調なのか分からない」という不安を抱えて来院される方は非常に多いです。当院で改めて規格写真を撮影し、現在の歯並びや噛み合わせの状態を客観的に分析・ご説明します。転院を勧めるわけではなく、あくまで「現状の把握」をお手伝いしますので、お気軽にご相談ください。
Q5. インビザライン(マウスピース矯正)でも顔の写真は必要ですか?
- はい、むしろマウスピース矯正こそ顔の写真が重要です。 インビザラインは歯並びをきれいにすることが得意ですが、私たちは「歯」だけを見ているわけではありません。「歯がきれいになったけど、口元が引っ込みすぎて老けて見えないか?」「笑った時の歯の見え方(スマイルライン)は美しいか?」といった、お顔全体との調和を重視しています。そのため、治療前・治療中・治療後の顔貌写真(お顔の写真)の撮影は必須と考えています。
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